500字でまとめよ!

最近読んだ本を500文字以内にざっくり、バッサリまとめてみました。

デイビッド セイン『地図でスッと頭に入る アメリカ 50州』(昭文社 2020年9月15日 1版1刷発行)

昨年11月に世界中の大注目を集めた、トランプ vs バイデンの米大統領選。

 

この対決により、米国が一枚岩にはほど遠い、複雑な多様性を持つ国であることが、改めて認識された。

 

そこに興味を持つと、米国の各州のことがもっと知りたくなるもの。

 

各州のキャラや特色を、ざっくりと、楽しく学びたい・・そんな気持ちにしっかり応えてくれるのが本書だ。

 

全米50州の特徴を、前頁フルカラーの楽しいイラストと平易な文章で紹介してくれる。

 

本書は基本的に見開きで1つの州を紹介する構成となっている。

 

各州の特徴や名所や名物、産業、州を代表する有名人、州の旗や代表的な都市、はては平均年収までが掲載されている。

 

地理や歴史にとどまらず、文化や経済までをカバー。

 

ビジュアル重視とはいえ、大人が読んでもしっかりとためになるコンテンツが詰まっている。

 

所々に挟まるコラムも「そこが知りたかった」というツボをついたテーマを取り上げてくれる。

 

中高生くらいから、大人まで幅広い年齢層が楽しめる図鑑・絵本。

 

単なる書籍というよりは、一つの作品といった雰囲気だ。

 

電子書籍ではなしえない、紙の本ならでは企画力と醍醐味がこの作品にはギッシリ詰まっている。

 

(496文字! 各州の有名人はジョン・F・ケネディバラク・オバマベーブルースプレスリーボブ・ディラン、ウォーホルといった、各界の著名人が並ぶ。しかし、アリゾナ州ドン・フライって、どうよ!?)

 

アンデシュ ハンセン 『スマホ脳』(新潮新書 2020年11月20日 発行)

帯の惹句「スティーブ・ジョブスはわが子になぜiPadを触らせなかったのか?」「最新研究が示す恐るべき真実」が目に留まり、つい購入。

 

内容的には、スウェーデンの著名な精神科医が、スマホが人に与える悪影響を、研究結果を交えながら指摘するものとなっている。

 

要点はおおむね以下の通り。

 

 

スマホは便利だし、常に新たな情報を届けてくれる。ヒマつぶしに最適なので、手放せなくなる

 

SNSは自己承認欲求を刺激するように巧みに設計されており、つい気になって見てしまう

 

・上記の理由から、人によっては依存症のような状態になってしまう

 

・インスタントに物事をしらべられるので、集中力や記憶力が減退する

 

・特に、人格形成においてリアル体験が重要な幼児期には、害が大きい

 

・夜もスマホ画面を眺めていると、神経が刺激され、熟睡を妨げる

 

などなど。

 

多面的な考察と、そこから導かれる結論は一定の説得力がある。

 

 


しかしながら、スマホが普及して早や十数年。

 

本書で晒されたスマホのデメリットは、すでに経験的に知らているものであり、すでに多くの言説がなされている。

 

そのため、あまり新味がない。

 

肩透かしな読後感が残った。

 

(499文字。 さらに言えば、本書を手に取る人は、そもそもスマホ依存になりにくいタイプの層ではなかろうか。著者がメッセージを届けたい人には、届かない・・)

 

岩田 健太郎 『僕が「PCR原理主義」に反対する理由』(新潮社 2020年12月12日 第一刷発行)

本書の内容は、前著の『丁寧に考える新型コロナ』と概ね同じ。

 

そのため、新型コロナやPCR検査に関する著者見解が目当てなら、どちらか1冊読めばいいいかな。

 

しかし、本書には独自コンテンツが付け加えられており、それが第一章の『僕の「医者修行」時代』。

 

著者の幼少のころから、青春時代、そして感染症専門医として名を成すまでの歩みが記されている。

 

内容が既出書と被るため、新情報として付されたのかもしれない。

 

しかし、こういう詳細な来歴紹介は意外と重要だと思う。

 

新型コロナ騒動以降、様々な「医者」が様々なメディアで意見を出している。

 

しかし、実は感染症にはさほど詳しくない医者が情報発信しているケースも多い。

 

(そういう出たがりタイプの医者の方が、メディア上での露出度が高く、結果的にその人の個人的な意見が世間に流布したりする。)

 

一口に医者といっても千差万別、医学分野の解説書を選ぶ場合、著者のバックボーンを知ることは有益。

 

また、医師(しかも有名大学の教授)といえば超エリートなイメージがあるが、こんな苦しいキャリアパスを経ている人もいるのか、という意外な発見もある。

 

ある種、この第一章こそが本書の主題と言えよう。


(496文字! 新型コロナが流行り始めたころは、まともな解説書が本当に少なかった。いまでは沢山出ているが、それゆえ、著者を選ぶ必要があるね。)

 

 

▼ 前著がこちら

 

細田 昌志 『沢村忠に真空を飛ばせた男 昭和のプロモーター・野口修 評伝』(新潮社 2020年10月30日 発行)

近年、格闘技やプロレス方面で、関係各者への聞き取り取材・綿密な裏取りをおこなった人物評伝がちょっとした流行りになっている(※)。

 

ただし、本書の主人公は選手ではなく、プロボクシング勃興期のやり手プロモーターであり、後にキックボクシングを世に送り出した野口修だ。

 

コアな格闘技ファンの間では今なお語り継がれる存在であり、さらには芸能事務所社長として五木ひろしを発掘したことでも有名だ。

 

しかし戦後の興業界で野口がのし上がった原動力の、ダークサイドが本書では明示されている。

 

そして、70年代にキックボクシングブームを巻き起こしたその舞台裏もつまびらかにされている。

 

興業の仕掛け人として、武道界の人物をいかに新興スポーツのリングに引っ張り上げるか、TV局をはじめとするメディアをいかに引き込むか等、野口氏の手練手管、虚実交えた駆け引きが本書のクライマックスといえる。

 

個性の強い、濃い面々の織りなす人間模様は、超面白い。

 

また、歴史に埋もれた、知る人ぞ知る武道家に光をあて、その功績を明確化する姿勢には好感が持てる。

 

取材10年、500ページ以上に及ぶノンフィクション巨編だが、面白過ぎて一気読みしてしまった。


(469文字! ちなみに表題にはキックボクシングブームの象徴「沢村忠」の名前があるが、本人への取材はかなわなかったようだ。そこがちょっと惜しい。)

 

 

(※)このブームは、『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』(新潮社)のヒットがその一因であろう。

その流れから、いっそうマニアックな本書が新潮社から出版されたのではなかろうか。

 

▼  増田俊也木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか

 

また、本書の中でも登場するこちらの本も面白い。結構昔の本だけど。

 

▼ ロバート・ホワイティング『東京アンダーワールド

手嶋 龍一 佐藤 優 『菅政権と米中危機』(中公新書ラクレ 2020年12月10日 発行)

副題に『「大中華圏」と『日米豪印同盟』のはざまで」とある通り、米中対立が本書のメインテーマだ。

 

出版時のタイムリーなネタとして「菅政権」も取り上げているが、全4章のうち菅新政権が主役なのは第1章のみ。他3章はすべて「米国(+同盟国)vs 中国覇権」にあてている。

 

 

前著レビューでも書いたが、手嶋・佐藤コンビの対談シリーズの特徴は、鋭い指摘力だと思う。

 

■安倍・トランプのカードを失ったのは習近平にとって痛手

 

■現在の米中対立を「新たな冷戦」見立て、戦闘はないとタカをくくるのは危険

 

中国共産党が目指しているのは、(旧ソのような)イデオロギーの覇権ではなく、国益の最大化

 

このあたりの論が印象に残った。

 

中国は国力を背景に周辺国家にブラフ含みで強硬に接し影響力を拡大していくスタイル。つまりは、ハッタリを武器にディールを行うトランプ似ている。

 

お互い交渉者なので落としどころを探って話を付けやすい。

 

また、意外と親中な一面も見せてきた(中国からすれば与しやすい)旧安倍政権の果たした「役割」も無視できない。

 

ただし対立は続くので偶発的な衝突の危険性はある。

 

あまり一般的なメディアには出てこない(出しづらい)見方だと思う。

 

(500文字! 表現が大げさかな?と感じる部分はある。セールス用の演出・味付けだろうけど、その点が本シリーズの好き嫌いを分けるような気がする。)

 

西浦 博 (聞き手 川端 裕人) 『理論疫学者・西浦博の挑戦 新型コロナからいのちを守れ!』(中央公論新社 2020年12月10日 初版発行)

感染症数理モデルの専門知識を武器に、新型コロナの感染拡大を防ぐため、人どうしの接触8割削減」を提唱。『8割おじさん』の二つ名で知られることになった医学者、西浦博。

 

日本では「レア者」な数理モデルの使い手である西浦氏が、政府の専門家会議に緊急招集され、激務に翻弄される様が、本書では本人の口から語られる。

 

感染防止と経済へのダメージ軽減は二律背反。そのため政府内や官僚からの抵抗にあい、あるいは世間からの矢面にも立たされる。まさに「火中の栗を拾ってしまった」状態だ。

 

専門家として譲れない線と現実との葛藤から、疫病への対応の難しさがあぶり出される。

 

また、自分の主張が曲解・利用されたりすることへの苦悩と不安が、行間からにじみ出ている。

 

新型コロナ禍は今もって続いており、当然「このように解決した」というスッキリした結末をむかえるわけでもなく、読後感にはモヤモヤが残る。

 

しかし、研究のプロとして、自らの考え・思いを伝えたいという情熱はひしひしと伝わってくる内容の濃い一冊だ。

 

医学者の立場から見た、新型コロナ対策の最前線の貴重なレポートであり、また、感染症数理モデルのさわりが分かるというお得本でもある。

 

(496文字! 後年、新型コロナ禍を振り返る際には、おそらく代表的な参考書籍になるであろう一冊、だと思う。)

 

 

牧村 康正 『ヤクザと過激派が棲む街』(講談社 2020年12月1日発行)

Kindleの新刊レコメンドに表示された本書のタイトルを見て、最初は空想小説かと思った。

 

しかし、概要を見るとノンフィクションのようだ。興味を覚えてそのまま購入。

 

学生運動新左翼→衰退」の経緯から傍流としてはみ出てきた過激派残党達が、日雇いの町「山谷」に流れ着いた。そこで労務者の側について闘争を行い、労務手配を生業としていた地場の暴力団と衝突。

 

普通の労働運動なら暴力団に対抗すべくもないが、そこは過激派。カチコミに来た暴力団フルボッコで返り討ちに。もちろん暴力団も黙ってはおらず反撃・・という、ごくローカルなタタカイの歴史が関係者の証言をもとに活写されていく。

 

読んでいて思う。なんて不毛な。

 

費やされたエネルギーと、得られる利益が全く釣り合わない。

 

時代に取り残された過激派が、闘争の場を求め、地域限定のタコつぼ的闘争にハマりこんでしまったように見える。

 

青春時代に心酔した価値観に、一生がんじがらめ。そして、手段(闘争)が目的になってしまっている。

 

とはいえ、それは私が、学生運動や過激派が暴れた当時を知らぬ世代ゆえの感想かもしれない。

 

彼らと同じ空気を吸っていた人であれば、違った感慨があるのかも?

 

(498文字! 本書は過激派側の記述が8~9割を占めるが、残りを暴力団とそれに近しい人物の証言も取り上げている。両者の顔を立てるようなスタンスが面白い。両方怖いもんね。)