毒物入り食品を小売店に忍ばせるという無差別テロ的な脅しで、食品メーカーを恐喝した「グリコ森永事件」。
世間を震撼させ、警察は総力を上げて捜査したものの、犯人は捕まらぬまま時効を迎えたことは良く知られている。
犯人は「かい人21面相」と人を食った名を名乗り、脅迫状ではベタな関西弁で警察を嘲弄するという、一種の劇場型犯罪として有名だ。
色々と興味深い事件であるが、事件全貌を把握している意外と人は少ないのではないだろうか。私もそうだ。
タイトルの「全真相」の文言に、つい惹かれてこの本を手に取った。
本書では、グリコ森永事件の発端から終結までを、時系列に沿い、警察や事件に巻き込まれた人物の証言ふんだんに織り交ぜ、臨場感たっぷりに描き出す。
そこで驚くのは、ここ一番での、犯人の異常なまでの悪運の強さ。
普通なら間違いなく逮捕されている状況を、ちょっとしたツキや、捜査のほころびに恵まれ逃げおおせている。まさに「怪人」。
また、店舗にばらまいた毒入り食品に「どくいりキケン」シールを貼って注意を促すなど、不謹慎ながら、犯人には妙なユーモアを感じる。
ウケ狙い口調の脅迫文など、このノリからして、犯人はぜったい関西人だな。
(500文字! なお、本書は事件の総括的な内容となっており、事件にまつわる新事実の発見を世に問う、といったタイプの作品ではない。)