最近の経済解説本を読むと、内容の一部で、賃金上昇の停滞が語られることが多い。
しかし、本書はそれらとは毛色が異なる。
労使関係研究が専門の著者が、経済分析のみならず、企業内部の労働事情や日本の商習慣などを含めて、賃金上昇の阻害要因を考察していく。
一般的な経済解説本が賃金を語る場合、数値データやグラフの分析に終始しがちで、企業や労働者の姿が見えてこない。
本書はそれらとは対照的。労働現場の実情から問題を説き起こす。
文章は平易わかりやすい。また、語られる内容は(私の企業勤務経験から見ても)実情に近いと思う。
本書を読むと、表層的なデータ分析だけで、労働に関する制度設計を行う危険性がよくわかる。
賃金上昇には生産性上昇が必須と言われるが、それが労働者を圧迫し、わずかな賃金上昇に見合わない負担を強いる場合もある。
また、高齢労働者の増える日本では、自然とワークシェア的な動労環境になっていることも多い。故に、一人当たりの生産性は低下するが、それは悪いことか。
あるいは、日本企業お得意の細やかな顧客サービスが、業界全体で見ると効率低下を招くこともある。
効率化の矛盾の間で生きる労働者の声なき声を、本書は代弁する。
(500文字! 学者やアナリストなどの経済の専門家は、一般企業の現場をあまり知らないので、データだけで労働を語るきらいがある・・・と常々思っていた。本書著者はそれとは一線を画す。テーマが労働と賃金とはいえ、ことさら「労働組合寄り」「左派寄り」的なスタンスでもなく、経済問題として、ニュートラルな視点で語る点にも好感が持てた。)










