近年、格闘技やプロレス方面で、関係各者への聞き取り取材・綿密な裏取りをおこなった人物評伝がちょっとした流行りになっている(※)。
ただし、本書の主人公は選手ではなく、プロボクシング勃興期のやり手プロモーターであり、後にキックボクシングを世に送り出した野口修だ。
コアな格闘技ファンの間では今なお語り継がれる存在であり、さらには芸能事務所社長として五木ひろしを発掘したことでも有名だ。
しかし戦後の興業界で野口がのし上がった原動力の、ダークサイドが本書では明示されている。
そして、70年代にキックボクシングブームを巻き起こしたその舞台裏もつまびらかにされている。
興業の仕掛け人として、武道界の人物をいかに新興スポーツのリングに引っ張り上げるか、TV局をはじめとするメディアをいかに引き込むか等、野口氏の手練手管、虚実交えた駆け引きが本書のクライマックスといえる。
個性の強い、濃い面々の織りなす人間模様は、超面白い。
また、歴史に埋もれた、知る人ぞ知る武道家に光をあて、その功績を明確化する姿勢には好感が持てる。
取材10年、500ページ以上に及ぶノンフィクション巨編だが、面白過ぎて一気読みしてしまった。
(469文字! ちなみに表題にはキックボクシングブームの象徴「沢村忠」の名前があるが、本人への取材はかなわなかったようだ。そこがちょっと惜しい。)
(※)このブームは、『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』(新潮社)のヒットがその一因であろう。
その流れから、いっそうマニアックな本書が新潮社から出版されたのではなかろうか。
また、本書の中でも登場するこちらの本も面白い。結構昔の本だけど。
▼ ロバート・ホワイティング『東京アンダーワールド』