500字でまとめよ!

最近読んだ本を500文字以内にざっくり、バッサリまとめてみました。

菊地 誠壱 『借金を返すためにマグロ漁船に乗っていました』(彩図社 Kindle版 2022年9月20日)

Kindle Unlimitedを通して、思わぬ著作に遭遇することがある。

 

本書もその一つ。

 

タイトルからしインパクト絶大。思わずダウンロード。

 

読んでみると、少々タイトルのイメージとは内容が異なる。

 

いわゆる「借金のかたでマグロ漁船」というわけではなく、田舎のヤンキーがマグロ漁船に数年就職、その給金を借金を抱える実家に入れた、とういう程度の話。闇深な話ではない(むしろ親孝行)。

 

ただ、地方ヤンキーの生態や、マグロ漁船というビジネス、船内での業務、などがわかって面白かった。

 

驚くべきはその給料の安さ。

 

過酷な労働、パワハラ当然、逃亡不可のブラック職場。ところが給与が全く見合わないように思える。

 

著者略歴の年齢から察するに、本書の経験談は30年余り前の話と思われる。

 

しかし、その時期、世はバブルのはず。いくら見習い、そして一航海毎の契約とはいえ、1か月ほどで手取り10万余りとはひどすぎる。

 

世にいう「借金のかたでマグロ漁船」は、著者は十分あり得る話というが、この稼ぎでは借金減らないだろう(乗せる側からすれば逃げられないという利点はあろうが)。おそらくそれは、都市伝説的に誇張された話ではなかろうか。

 

(496文字! 知らない世界を覗くのは読書の楽しみの一つだが、本書などはまさにそう。)

 

借金を返すためにマグロ漁船に乗っていました

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湯本 雅士 『新・金融政策入門』(2023年7月20日 第1刷発行)

タイトルに「入門」とあるが、一般向けにしてはレベルの高い本だ。

 

近年話題の、金融政策関連の経済トピックを、アカデミックな視点から解説する内容となっている。

 

網羅的であり、ゆえに結論に向けての流れやメッセージ性があるわけではない。また、一度読んでスッと頭に入るほど平易でもない。

 

故に明確な読後感を持ちづらい本ではある。

 

ただ、所々に印象的なフレーズが出てくる。個人的にとりわけ心に残ったのは

 

「理論として筋が通っているということと、適切な政策であることの間には大きなギャップがある」

 

という一文。

 

経済学系の書物では数式が出てくることが多い。

 

経済事象から主要素を取り出し、それら関係性の把握方法として数式を用いるのは勿論理解できる。しかし時折、有名な数式をこねくり回し、どんどん現実から乖離していく書籍に出くわすことがある。

 

現実のトピックの解説から始まり、その解説の一助として時折数式が登場する本書のスタンスは好感が持てた。

 

また「日本の個人税負担率は先進諸国の中では低い方」「日銀の白川総裁時代は、欧米に劣らぬ規模の緩和策を行っていた」など、ファクトを元に、一般に流布するイメージを淡々と覆す姿勢も面白かった。

 

(498文字 正直、本書をしっかり理解できたとは言えない。私の空気頭には、ややレベルが高すぎたかな。)

 

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齋藤 幸平 『ゼロからの「資本論」』(2023年1月10日 第1刷発行)

かつて大学の経済学部では、近代経済学(近経)とマルクス経済学(マル経)の基礎的な授業が必修だったと聞く。

 

私も大学では経済を専攻したが、共産圏崩壊後の世代故、マル経は影も形もなかった。

 

しかし、今になり思うのだが、市場原理ばかりを論ずる近経だけでは片手落ちではないか。

 

「富」「価値」「価格」「商品」「労働」など、人と経済の根本的な繋がりを論ずるマル経は、経済を学ぶ上で必須ではなかろうか。

 

そんな学びなおしの意図から、ごく一般向けのマル経解説書をこれまで何冊か読んだ。しかしどれもイマイチ。

 

ところが最近手に取った本書は違った。説明がわかりやすい。平易な文章で、知りたいことを語ってくれる。買ってよかった。

 

ただ、本書後半では「本来のコミュニズムソ連は別物」「本当のコミュニズムとは」的な、イデオロギーがらみの話になってくるので、その辺は流し読み。

 

理想的な「本当のコミュニズム」で動いている国は皆無。

 

結局どのような形であれ、コミュニズムは人間の本性に反していると思われる。

 

そういう無用なイデオロギーからマル経を切り離し、経済学として有効な部分を抽出し、別の名前を付けて体系化・再構築できれば良いと思うのだが。

 

(500文字! わかりやすいのも当然で、本書は「NHK100分de名著」内容を元に大幅加筆して書籍化したものらしい。)

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神野 正史 『暗記がいらない世界史の教科書』(2020年1月14日 第1刷 第1刷 発行)

かつての受験時代、世界史は得意科目であった。あれから幾星霜、知識はあらかた抜け落ちている。

 

世界史、少し学びなおしてみっか。そんな思いから、本書を手に取った。

 

よくある「世界史の学びなおし本」だと思って。

 

ところが、その内容は期待したものと毛色が異なった。

 

まず、地球の寒冷化~温暖化のサイクルが歴史を動かす主な原因として、その流れに沿って各時代を解説する。

 

さらに、かつて学んだ教科書では出てこない人名・イベントが、どんどん出てくる。

 

読んでいて、自分の学んだ世界史は何だったのか、という気がしてくる。

 

歴史というものは、切り口に寄って、まったく違った解説ができるという好例であろう。

 

思えば、かつて学んだ世界史は「ナントの勅令」「カノッサの屈辱」など、それ重要?というイベントがたくさん出てきた。それは、欧米の歴史観をベースに教科書を作ったからという見解も聞いたことがある(そこに中国の歴史、その他の地域を追加して編纂し教科書のベースができたとか)。

 

教科書の記述は、歴史というビッグデータの一つの見方に過ぎない。そう教えてくれる、興味深い書籍であった。

 

そのため、本書の見方が正統派だと考える必要もないわけだが。

 

(499文字 とはいえ、最近の歴史教科書がどうなっているのか、全く知らないのだが。もしかして、今の教科書は、本書の様な歴史観で書かれているのだろうか?)

 

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安達 裕哉 『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社 2023年4月18日 第1刷発行)

話し方のノウハウ本である。

 

私は話しが上手いほうではないので、書店でこの手の本が目に付くと、つい買ってしまう。

 

実際、これまでも、当ブログで「話し方本」を幾つか取り上げている。

 

役に立った本もあれば、そうでないものもある。

 

本書は・・正直、後者かなあ。

 

いや、別に本の内容が悪いというわけではない。

 

ビジネスコンサル系の著者が、話し方や、受け答えのコツを、超わかりやすく解説してくれている(なにせ、再読不要な本を目指したと、わざわざ最初に書いてあるくらいだ)。

 

ただ、内容が初歩的であり、大方の社会人にとっては「この程度のことはわかっている」「自然とやっているよ」となるであろう。

 

おそらく、本書のターゲットは新社会人、あるいは学生あたりかな。

 

若かりし頃の自分に本書を読ませてあげたかった、とは思うが。

 

(343文字 あっさり、あっという間に読めてしまう本だ。)

 

頭のいい人が話す前に考えていること

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新庄 耕 『地面師たち』 <集英社文庫 2022年1月25日 第1刷>

珍しく小説を読んだ。

 

昔はよく読んだが、歳を食ったせいか、すれっからしになったせいか、「所詮作り話でしょ」と、フィクションにあまり興味を持てなくなってしまった。

 

しかし、本作は、2017年に世間を騒がせた「積水ハウス地面師事件」をモチーフとしているとのこと。あの事件には未だ興味を持っているので、本作を読んでみることにした。

 

実際のところ、本作は積水事件の小説化ではない。キャラも架空のもので、実際の事件の犯人たちに合致するわけではない。

 

とはいえ、クライマックスとなる事件の流れは、完全に積水事件を下敷きにしたものだ。

 

ただ、積水事件について個人的に気になっている「建物の合鍵をいかに用意したか」という謎は、本書でも解き明かされることはなかった。本作でも合鍵が終盤の重要な小道具になっているが、用意の経緯はぼかされている。残念。

 

なお、最近のエンタメ小説は、キャラがなんだか漫画チックなことが多く、本書もしかり。この点、少々興ざめ。おそらく作家が、ハナから映画・ドラマ化を念頭に書いているせいではなかろうか。

 

読んで、それなりに面白いのだが、一方で「実際の事件のほうが、リアルで面白い」と感じてしまうのも事実。

 

(499文字 積水事件そのものを、地面師視点で小説化したら、ぜったい面白いと思う。)

 

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▼ こちらは地面師を扱ったノンフィクション。積水事件のすぐ後に、親本が出版された。個人的には、こちらの方が面白かった。やっぱり現実は小説よりも奇なり、というか面白し。

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池上 彰 佐藤 優 『黎明 日本左翼史』(講談社現代新書 2023年7月20日 第1刷発行)

両著者による『日本左翼史』シリーズ、既刊3冊で完結と表明されていたと記憶するが、新作が出た。

 

既刊本は左翼運動の、戦後隆盛期/学生運動/衰退期 にそれぞれ焦点を当てる。3冊目で現在に達しているのでネタ切れしそうなものだが、本書は趣向を変えて戦前をテーマとしている。うまく4匹目のテーマをひねり出したもんだ。

 

ただ、個人的にはシリーズ中、本書が最も面白かった。

 

本書が扱う題材は、立花隆日本共産党の研究」シリーズに近似している。しかし、本書のほうが簡潔にまとまっており、頭に残りやすい。

 

加えて、左翼誕生以前、明治大正期からの社会運動から説き起こし「左翼」へと至る流れをわかりやすく解説(「右翼」への流れも言及)。本書を読めば、日本のイデオロギー思想史をざっくりと理解できる。

 

個人的に腑に落ちたのがアナーキズムに関する解説。人によって主張の違うわかりにくい主義主張と思っていたが、アナーキズムには2種類あり、A 絶対個人主義的な考え方の類型と、B 人造的な国家を否定する類型があるという説明は、明快。なるほど、どちらも政府を否定のは同じだが、根本的な考えが異なる。

 

対話形式で読みやすいが、意外と内容濃い本だった。

 

(498文字! さらにテーマをひねり出し、掟破りのシリーズ5冊目を期待したい。)

 

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