両著者による『日本左翼史』シリーズ、既刊3冊で完結と表明されていたと記憶するが、新作が出た。
既刊本は左翼運動の、戦後隆盛期/学生運動/衰退期 にそれぞれ焦点を当てる。3冊目で現在に達しているのでネタ切れしそうなものだが、本書は趣向を変えて戦前をテーマとしている。うまく4匹目のテーマをひねり出したもんだ。
ただ、個人的にはシリーズ中、本書が最も面白かった。
本書が扱う題材は、立花隆「日本共産党の研究」シリーズに近似している。しかし、本書のほうが簡潔にまとまっており、頭に残りやすい。
加えて、左翼誕生以前、明治大正期からの社会運動から説き起こし「左翼」へと至る流れをわかりやすく解説(「右翼」への流れも言及)。本書を読めば、日本のイデオロギー思想史をざっくりと理解できる。
個人的に腑に落ちたのがアナーキズムに関する解説。人によって主張の違うわかりにくい主義主張と思っていたが、アナーキズムには2種類あり、A 絶対個人主義的な考え方の類型と、B 人造的な国家を否定する類型があるという説明は、明快。なるほど、どちらも政府を否定のは同じだが、根本的な考えが異なる。
対話形式で読みやすいが、意外と内容濃い本だった。
(498文字! さらにテーマをひねり出し、掟破りのシリーズ5冊目を期待したい。)
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