500字でまとめよ!

最近読んだ本を500文字以内にざっくり、バッサリまとめてみました。

奥山 真司 『さくっとわかる ビジネス教養 地政学』(新星出版社 2020年6月25日 初版発行)

地政学

 

よくわからない学問名だ。

 

たとえば、大学で「地政学部」なんて、聞いたことない。

 

しかし、国際情勢を論じた本では「地政学的な見地から」云々などという表現はしばしば目にする。

 

主に大国の、国益のぶつかり合い、そしてそのための戦略を論じた学問なんだろうな、という漠然としたイメージはある。

 

もうちょっと明確に「地政学」を把握したいと思い、本書を手に取った。

 

タイトルに「ビジネス教養」とあるので、大人向けの本だが、そうとは思えないほど図解重視。

 

全ページカラーで、文章よりも、妙にユルいイラストに重きを置いている。

 

主だった地政学上のテーマが一問一答的にまとめられており、たしかにサクッと理解できる構成になっている。

 

そこから見えてくるのは、大国どうしの利益、そして価値観のぶつかり合い。

 

本書の結びとして「安易な理想論や平和論に流されず」国際情勢を分析するためのツールが地政学であるとしている。

 

軍事や覇権主義と親和性の高い学問なので、学校教育には向かないだろう。

 

しかし、世界のリアルとして、こういう知識は持っておいた方が良いかも。

 

その方が、戦争がテーマ映画やスパイ小説が、より深く味わえるだろうし。

 

(492文字! 著者紹介として「防衛省の幹部学校で地政学は戦略学を教えている」とあるので、ごく一部で学べる学問という位置づけなのだろう。)

 

太田 尚樹 『世紀の愚行 日本外交失敗の本質』(講談社文庫 2020年11月13日 第一刷発行)

上記表題の他にも「太平洋戦争・日米開戦前夜」「リットン報告書からハル・ノートへ」という副題がついている。

 

なぜ日本は、とうてい勝ち目のない米国と開戦するにいたったか?

 

この点がテーマであろうことは表紙を見ただけでわかる。

 

戦時中日本軍の組織研究の名著「失敗の本質」に絡めたタイトルにも惹かれた。

 

そして読んでみたのだが、なんと小説であった。

 

とはいえ、著者は大学名誉教授。自信の研究と考察をふんだんに盛り込んだ上で、一般読者でも読みやすいように小説形式とした旨があとがきに記されている。

 

一般に、日本を戦争に追い詰めたとされる「ハル・ノート」について、従来とはやや違った角度から解釈を試みている。

 

そして、ハル・ノートの裏には、あの国の意図が・・おっと、これ以上はネタバレになるね。

 

最後のエピローグで、著者独自の見立ての裏付けを開陳している。

 

小説形式なのでサクサク読めるし、戦前・戦中の主要人物がオールスターキャストで登場する。

 

なかには、さしたる用もないのに顔を出す人物もいて、読者サービス満点w

 

私のように「大戦期に多少興味がある」程度の者には、主要人物が網羅されて、おおよその流れが把握できる本書はうってつけ。

 

(499文字! イデオロギー色がなく、歴史そのものに焦点を当てたスタンスも◎。ちなみに文庫書下ろし作品)

 

 

▼ 関連書籍といって良いのか? 日本軍組織の問題点を考察した名著。歴史モノというよりは、組織論の本。

岩田 健太郎 『丁寧に考える新型コロナ』(光文社新書 2020年10月30日 初版第1刷発行)

4月に緊急出版された前作『新型コロナウイルスの真実』に続く新型コロナの解説書。

 

検査や治療については、前作から更に専門的に掘り下げた内容となっており、とても参考になる。

 

加えて、マスクについての考え方や、緊急事態宣言にも章を割き、専門家としての知見をわかりやすく丁寧に述べている。

 

このブログでも何冊か「新型コロナ本」を取り上げてきたが、私が読んだ中では本書がベスト。

 

一読すれば、一般マスコミが伝えるコロナ情報が、いかに端折られ、デフォルメ加工されたものかが良くわかる。

 

氾濫する情報に振り回されないための、基本的な知識や考え方を教えてくれる啓蒙の書と言えよう。

 

 

ただ、少々気になる点もある。

 

所々に「ちょけた」言い回しや、唐突にマンガ・アニメのキャラを用いて説明した箇所があり、ややマイナスイメージ。

 

おそらくこれは「専門的内容に一般読者がとっつきやすいように」という読者サービスなのだろう。

 

しかし、読む人によっては「この著者は子供っぽい人? → だからダイヤモンドプリンセス号の件ではトラブルを起こしたんだな」という印象を与えかねない。

 

内容は良いのだが、自己プロデュースがあまりうまくいっていないのがちょい残念。

 

(499文字! 世に氾濫する「コロナ対策」の数々は、素人目にも意味ねー!と感じてしまうものが多い。お店などは「対策やってます感」の演出が必要なのはわかるが、それらを盲信して思考停止に陥らないようにしたいものだ。)

 

 

▼ 前作はこちら

中原 圭介 『疫病と投資』(ダイヤモンド社 2020年12月1日 第1刷発行)

「年末といえば中原圭介」のジンクスは、今年も生きていた。

 

それにしても、タイトルが『疫病と投資』。こんなテーマで堂々と本を出せるのは中原圭介しかいなかろう。

 

巻頭一行目から「私の現在の職業は経済アナリストですが、学生時代には歴史学を専攻しました」。お約束の中原節だ。

 

 

疫病の社会・経済への影響を語るとなれば、歴史を紐解く必要がある。そして投資を前提に未来予想を行うとなると、中原氏はまさに適者。

 

本書では、前半で人類と疫病の関わりの歴史が語られ、現在の新型コロナへの各国の対応状況の概略が続く。

 

そして後半で、新型コロナがもたらす社会変化における投資のヒントが述べられる。

 

 

個人的には、本書で解説される各トピックについては、既知のものが多かった。

 

しかし、それらを平易な文章で再編集して、最終的に投資のヒントに集約する手法は中原氏ならでは。

 

 


なお、本書のタイトルを見て「コロナ禍で金儲け」と捉え、嫌悪する人もいるだろう。

 

しかし、疫病の克服に役立つ製品やサービスを提供する企業は、報奨を受けるべきだ。

 

そして、企業にとっての報奨とは利益だ。

 

そんな企業の一員(=出資者)になることは、社会への貢献だと思う。

 

(492文字! 中原氏の最近の著作は新書やごく簡素な装丁のものが多かった。しかし本書のデザインは悪くなく、出版社も力を入れて作ったことが見て取れる。)

 

大木 毅 『「砂漠の狐」ロンメル  ヒトラーの将軍の栄光と悲惨 』(角川新書 2019年3月10日 初版発行)

しばらく前に、ブックオフで「史上最大の作戦」という本を購入。

 

名前だけは知っていた。かのノルマンディー上陸を描いた本だ。

 

読んでみると、当時、実際に兵士として作戦に加わった大勢の人物の証言を、山のように積み重ね、ノルマンディー上陸を活写した大労作ドキュメントであった。

 

その作中、ひときわ異彩を放つ人物がいた。

 

ナチス側の名将ロンメル

 

証言者としてではなく、小説キャラ的に所々で登場する。

 

正確に戦況情報が彼にさえ伝わっていれば、合戦のゆくえは変わっていたかも・・そんな描かれ方をしている。

 

しかし、実際はどんな人物だったのだろう。興味が湧き、帯に「虚像と実像を暴く」本書を手に取ってみた次第。

 

本書でのロンメル評は「出世の野心あらわな軍人。現場監督としては優秀だが、司令官には向かない」といったところ。

 

ちょっとイメージダウン。やはりヒーロー像は、戦争にありがちなプロパガンダによるものか。

 

それにしても、こんなに丹念に、ロンメルの生涯と、戦績を研究している日本人がいることに驚いた。

 

ミリタリー歴史マニアにはアピール高い研究成果だと思う。

 

ただ、ちょい興味を持って読んだだけの私には、少々とっつきくさのある本であった。

 

(500文字! 戦車戦の戦術に興味がある人なら、面白いと思われる。)

 

 

▼ こちらは私にも面白く読めた。戦争の激しさ、悲惨さだけでなく、悲喜こもごもすべてをひっくるめたような大作だ。

河野 啓 『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』(講談社e学芸単行本 2020年11月20日 発行)

最近、登山関連の本を立て続けに読んだ(★)

 

登山に本格的な関心があるわけではないが、独特の異世界を覗いてみたい好奇心から読んでみた次第。

 

すると、ある日、kindleのレコメンドに本書が表示された。

 

副題にある「栗城史多」という人のことは全く知らないが、登山関連本のようだ。

 

帯の「開高健ノンフィクション賞受賞作」にも惹かれて即購入。

 

読み終えて、「へえ~こんな人がいたのか」と、ある意味感心。

 

この方は、いわば「自称登山家のタレント」といったところ。

 

登山の腕前は中途半端ながら、SNSでファンを増やし、人脈構築力で著名人の知遇を得てメディアにも露出、それらを背景に企業スポンサーを獲得し・・と、わらしべ長者のように知名度を獲得していった様が本書で描かれている。

 

しかし、何度も挑んだエベレストでは、実力とのギャップから何度も跳ね返され、最後には死に至る。

 

生来に目立ちたがり屋で、メディアを巻きこんで「登山家」として世に出たものの、最後は自ら作り上げた虚像に追い詰められた・・。なんか切ない。

 

いくら積極的で、自己演出と売出し方に長けていても、見合った実力がないと、真の名声には遠い。そう感じた。

 

(500文字! なお、本書は暴露本的な側面もある。リアルタイムでこの方を見ていたなら、別の楽しみ方があるかもしれない。)

 

 

 

★ついでというわけではないが、何冊か読んだ登山本も紹介しておこう。

 

 エベレスト遭難事故の現場にいたジャーナリストによる回想。近年話題の「営業公募隊」登山の実態に迫る。

 

 探検家って、どうやって食ってるんだ? そんな疑問に現役探検家が答えた面白エッセイ。

 

 ご神体の「那智の滝」を登って逮捕! 個性強め・・というか、強すぎ沢登りクライマー魂の叫び!?

中島 真志 『仮想通貨 vs. 中央銀行 「デジタル通貨」の次なる覇者』(新潮社 2020年6月20日 発行)

仮想通貨ブームさなかに出版され、好評を博した「アフター・ビットコイン」から早や3年。

 

「アフター・ビットコイン 2」と副題のついた続編(本書)が刊行された。

 

前作はとても良かったが、実を言うと、当初本書には食指がうごかなかった。

 

というのも、その後仮想通貨ブームは下火に。そして本書が巻頭で大きく取り上げるFacebook主導の新デジタル通貨「リブラ」は、現在暗礁に乗り上げているように見える。

 

ちょっと機を逃した本に思えた。

 

しかし、読んでみると、個々のブームには左右されない、今後の通貨の行方を解説・考察した、とても内容の濃い本であった。

 

しかも、文章が神業的にわかりやすい。

 

通貨のデジタル化というと、貨幣論IT技術についても触れねばならず、コムヅカシイくなりがちだ。

 

しかし、前作同様、一般人でもスラスラ理解できてしまう。この筆力はスゴイ。

 

 民間・中央銀行のデジタル通貨の最前線、覇権争い

 

 乱立する仮想通貨とそれを取り巻く魑魅魍魎

 

そういった興味深いテーマが、平易に解説されている。

 

今、仮想通貨が盛り返しつつあり、各種デジタル通貨は今後ますます注目を集めるだろう。

 

本書にスポットがあたる日が、近々来るかもしれない。


(498文字! 売れた本の続編モノというと焼き直し多用の薄味になりがちだが、本書はそうではなかった。デジタル通貨のゆくえ次第では、更なる続編があるかも。)