500字でまとめよ!

最近読んだ本を500文字以内にざっくり、バッサリまとめてみました。

池上 彰 佐藤 優 『黎明 日本左翼史』(講談社現代新書 2023年7月20日 第1刷発行)

両著者による『日本左翼史』シリーズ、既刊3冊で完結と表明されていたと記憶するが、新作が出た。

 

既刊本は左翼運動の、戦後隆盛期/学生運動/衰退期 にそれぞれ焦点を当てる。3冊目で現在に達しているのでネタ切れしそうなものだが、本書は趣向を変えて戦前をテーマとしている。うまく4匹目のテーマをひねり出したもんだ。

 

ただ、個人的にはシリーズ中、本書が最も面白かった。

 

本書が扱う題材は、立花隆日本共産党の研究」シリーズに近似している。しかし、本書のほうが簡潔にまとまっており、頭に残りやすい。

 

加えて、左翼誕生以前、明治大正期からの社会運動から説き起こし「左翼」へと至る流れをわかりやすく解説(「右翼」への流れも言及)。本書を読めば、日本のイデオロギー思想史をざっくりと理解できる。

 

個人的に腑に落ちたのがアナーキズムに関する解説。人によって主張の違うわかりにくい主義主張と思っていたが、アナーキズムには2種類あり、A 絶対個人主義的な考え方の類型と、B 人造的な国家を否定する類型があるという説明は、明快。なるほど、どちらも政府を否定のは同じだが、根本的な考えが異なる。

 

対話形式で読みやすいが、意外と内容濃い本だった。

 

(498文字! さらにテーマをひねり出し、掟破りのシリーズ5冊目を期待したい。)

 

黎明 日本左翼史 左派の誕生と弾圧・転向 1867ー1945 (講談社現代新書)

新品価格
¥957から
(2024/3/10 13:06時点)

東 大作 『ウクライナ戦争をどう終わらせるか 「和平調停」の限界と可能性』(岩波新書 2023年2月21日 第1刷発行)

終わりの見えぬウクライナ戦争。

 


本書は、今後起こりうるシナリオを複数想定し、その中で可能性の高いものについて深く考察、戦争終結(もしくは休戦)への道筋を探る。

 


そして本書が落としどころとして着目するのが、戦争初期段階の停戦協議に於いてウクライナ側が示した条件(ざっくりまとめれば「NATO非加盟、核兵器保有、クリミアと新ロシア派が実効支配していた地域は別途協議」)。

 


ある意味現実的であり、類書でも同様の意見はよく見られる。

 


確かに、ロシア系住民の多い両地域がウクライナ領であることが、戦争の重要な一因ではある。

 


とはいえ、ウクライナ側からすれば、既に蹴られた停戦条件なので、今更両地域を「別途協議」も無かろう。

 


また、今更ロシアも引くに引けない状況であろう。

 


結局のところ、延々「戦闘続けど成果なし」に疲弊したロシアが譲歩に踏み切らないと、停戦にすら持ち込めない。

 


しかし、そのような敗北色の強いの決定は、プーチンが権力を喪失した後にしか起こりそうにない。

 


内乱や暗殺でプーチンが排除される可能性もゼロではないが、軍事政権色の強い専制国家故、難しかろう。

 


唯一の希望はプーチンが高齢であることではなかろうか。

 


(496文字! 本書のメインパートは2/3ほどで、終盤1/3は日本の国際協力についての紹介で占められる。増量して1冊にした感がある。)

 

ウクライナ戦争をどう終わらせるか 「和平調停」の限界と可能性 (岩波新書 新赤版 1961)

新品価格
¥1,012から
(2024/3/10 13:07時点)

安達 宏昭 『大東亜共栄圏 帝国日本のアジア支配構想』(中公新書 2022年7月25日 初版)

ウクライナ戦争の影響だろうか、最近、近代史に興味が湧く。その一環で本書購入。

 

大東亜共栄圏といえば今日、戦前戦中における日本の帝国主義の象徴としてネガティブ語られるが、一部ネトウヨ連中は欧州列強からのアジアの開放として好意的に捉えることもあるようだ。

 

しかし、本書は、そのようなイデオロギーから距離を置き、大東亜共栄圏の構想発足~実行~崩壊を、綿密な記録に基づき、歴史的な事実を追求する。

 

あとがきによれば、本書は構想16年!そのため内容は濃い。私の様なニワカには情報量が多すぎて、咀嚼しきれない。

 

ただし、読み通すことにより、大東亜共栄圏の理想と実態、そして盛衰の流れが大まかに理解できた。

 

列強の一角に食い込んだ大日本帝国が、欧州帝国主義に対抗して、自らを盟主とするアジアの団結、経済圏構想をぶち上げる → しかし当時の日本にそんな大規模構想をまとめる力量はなく、WW2突入以降は、日本による一方的な物資調達手段に → 日本の戦況劣勢によりガタガタに、敗戦で消散。

 

ただし圏内のアジア各国は、大東亜共栄圏を独立への踏み台に利用した感もあり、そういう意味ではアジア発展にある意味貢献したと言えなくもない。

 

そう理解した。

 

(500文字! 明治維新後の急速な富国強兵策が、運もあってうまくいきすぎ、最終的に躁状態になって、分不相応で自意識過剰な「アジアの盟主」を夢見てしまった・・そんな風にも感じられた。)

 

大東亜共栄圏 帝国日本のアジア支配構想 (中公新書)

新品価格
¥949から
(2024/3/10 13:07時点)

手嶋 龍一 佐藤 優 『ウクライナ戦争の嘘 米露中北の打算・野望・本音』(中公新書ラクレ 2023年6月10日 発行)

手島・佐藤コンビ本、現時点での最新刊。

 

地政学要素に重きをおいた、少々大げさな語り口が特徴で、個人的には「知識・教養」ではなく「娯楽」感覚で読むことが多い。

 

ただ、本書については、ロシアによるウクライナ侵攻(以下 侵攻)が注目される昨今、ロシア通の佐藤の言説はタイムリーで、興味深く読むことができた。

 

本書の基本姿勢として侵攻を「あらゆる国連憲章に背き、国際法規に反する、圧倒的な不正義の戦い」と断じつつも、ロシア側からの視座を含め解説。

 

日本における侵攻関連の報道は、西側主導の「民主主義 vs 独裁陣営」的ストーリーに準じたものがほとんど。

 

しかしウクライナ側も大きな問題を抱えた国である点を本書は強調する。

 

国内における民族・宗教・言語の違い、そこからくる分断。つまりウクライナもロシア同様、多問題国家ソ連の裔であり、その問題が噴出した結果が侵攻であると論ずる。

 

そして、本書が導き出す結論は、それぞれ違った来歴文化を持つ西・中・東部はそれぞれ独立させ、欧州に近しい西部は西側陣営となり、露系住民の多い東部はロシア併合も視野に、というもの。

 

終わりなき戦いに当事国が疲弊したのちは、そんな未来に着地するかもしれない。


(500文字! 佐藤氏は、親露発言を繰り返すかつての盟友?鈴木宗男に対して「政治家なので、日露関係を正常化する際の自分の役割を考えて発言しているのだろう」と一応フォローしているのが面白い。)

 

ウクライナ戦争の嘘 米露中北の打算・野望・本音 (中公新書ラクレ)

新品価格
¥949から
(2024/3/10 13:08時点)

渡辺 努 『物価とは何か』(講談社選書メチエ 2022年1月11日 第1刷発行)

タイトルからして、本格的で、やや固そうな経済読み物に見える。

 

万人受けする書物ではないように思うが、なぜか多くの書店で平棚に積まれている。

 

「物価高が何かと話題となる昨今、時流にマッチして注目されているのかな?」そう思い購入。

 

そして読んでみて驚いた。中身は読み物どころか、本格的な経済学書ではないか。

 

物価理論を、その歴史から紐解き、最新の研究課題にまで言及。そして経済学的テーマへと話を広げる。

 

特に「物価の制御」「デフレからの脱却」についてが本書の主題で、ページを大きく割き解説する。

 

これらは大学専門課程レベルの内容ではなかろうか。

 

しかし、それを一般読者向けに、やわらかい語り口で極力平易に解説するのが最大の特徴。

 

 


さて、経済学は「社会科学」と言われるが、本書を読むまで、それはやや比喩的な表現かと私は思っていた。

 

ところが、本書で語られる研究者の姿は、日々市場で当たり前に行われる価格の設定・更新を、膨大なデータから観測、仮説を立てて分析を行い、一般的な理論の確立を目指す。

 

自然科学的な普遍法則の追求とは方向性が異なりはするが、これはまさに「科学」の基礎研究と言えよう。

 

本書を読み、経済学の見方が変わった。

 

(500文字! 今年読んだ本の内、今のところ私の「本年のNo.1本」。)

 

物価とは何か (講談社選書メチエ)

新品価格
¥2,090から
(2024/3/10 13:09時点)

小林 基喜 『さよなら、野口健』(集英社インターナショナル 2022年3月30日 第一刷発行)

以前「タレント登山家」というべき栗城史多氏の生涯を追ったノンフィクション、河野啓『デス・ゾーン』を読んだことがある。

 


実力に見合わない挑戦を行い、悲劇的な最期を迎える栗城氏。しかし、いかに「登山家」として世に出るか、その自己プロデュースと行動力は、山師的ではあるが、すごさも感じた。

 

▼ 河野啓『デス・ゾーン』レビュー

500moji.hatenablog.com

 

その栗城氏と、ある種「タレント登山家」として双璧といえるのが野口である。

 

本書では、野口氏の行動力と企画・アピール力、その裏面の人間としての欠点が、活動の初期から友人、そして事務所スタッフとして過ごした著者により描かれる。

 

ただ、本書が『デス・ゾーン』と決定的に異なるのは、主人公が登山家ではなく、著者という点。

 

本書のテーマは「野口とかかわった自身の半生記」であり、著者の自分語りパートが思いのほか多い。

 

これは、読んでいてしんどい。

 

なにせ、まったく知らない人の独白記である。

 

野口に対する愛憎や、精神的な苦痛などが色濃く描かれ、文学的な雰囲気も漂わせるが、著者の自意識過剰が殊更強く感じられ、「しらんがな」とツッコミを入れたくなる。

 

この手の書籍は「暴露本」的な要素もはらむ。そこに著者のエゴがかぶさると、余計にゲスく感じる。

 

(499文字 似たものどうしという面は否めないが、野口氏は、栗城氏よりかは、まっとうな登山家に近いように思えた。)

 

さよなら、野口健(集英社インターナショナル)

新品価格
¥1,881から
(2024/3/10 13:10時点)

巽 宇宙 『元東大生格闘家、双極性障害になる』(日本評論社 2023年2月15日 第1版第1刷発行)

巽 宇宙(たつみ うちゅう)。懐かしい名前だ。

 

90年代、彼は「修斗(しゅうと)」という、今でいうところのMMA(打撃・投げ・寝技ありの「総合格闘技」)の、日本における源流というべき競技の中心選手の一人であった。

 

自分もかつて、多少似た競技をかじったことがあり、著者が現役のころ、修斗の会場に良く足を運んだ。当時、著者は「現役東大生シューター(修斗の選手)」として、業界内では名が知れていた。

 

その後、年月を経るにつれ、私自身の格闘技に対する興味が薄れ、巽宇宙の名前もほぼ忘れていたが、たまたまネット上で本書の発売を知り、興味をもち購入。

 


内容的には、自身による半生記、双極性障害に関する解説記事、専門医との対談で構成されている。正直、取っ散らかり気味で、著者に対して興味があり、かつ双極性障害について深い興味がある人でないと、完全読破は厳しい。

 

半生記部分についても、エピソードの脈絡がわかりづらい箇所があったりと、あまり出来が良いとは言えない。

 

ただ、文武両道のイメージのある著者だが、その実、精神的負担を背負いながら生きていたことはよくわかった。

 

凡庸なれども健康が一番。読了し、そんな感想を抱いてしまった。

 

(500文字! 障害と付き合い生きていく苦悩、精神的な不安定感が行間に漂っている。)