以前「タレント登山家」というべき栗城史多氏の生涯を追ったノンフィクション、河野啓『デス・ゾーン』を読んだことがある。
実力に見合わない挑戦を行い、悲劇的な最期を迎える栗城氏。しかし、いかに「登山家」として世に出るか、その自己プロデュースと行動力は、山師的ではあるが、すごさも感じた。
▼ 河野啓『デス・ゾーン』レビュー
その栗城氏と、ある種「タレント登山家」として双璧といえるのが野口である。
本書では、野口氏の行動力と企画・アピール力、その裏面の人間としての欠点が、活動の初期から友人、そして事務所スタッフとして過ごした著者により描かれる。
ただ、本書が『デス・ゾーン』と決定的に異なるのは、主人公が登山家ではなく、著者という点。
本書のテーマは「野口とかかわった自身の半生記」であり、著者の自分語りパートが思いのほか多い。
これは、読んでいてしんどい。
なにせ、まったく知らない人の独白記である。
野口に対する愛憎や、精神的な苦痛などが色濃く描かれ、文学的な雰囲気も漂わせるが、著者の自意識過剰が殊更強く感じられ、「しらんがな」とツッコミを入れたくなる。
この手の書籍は「暴露本」的な要素もはらむ。そこに著者のエゴがかぶさると、余計にゲスく感じる。
(499文字 似たものどうしという面は否めないが、野口氏は、栗城氏よりかは、まっとうな登山家に近いように思えた。)
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