カバーには「2021年新書大賞」の表記が踊り、売れているらしいが、正直あまり感じ入るところはなかった。
一読して思った。なぜそこまでマルクスを復権したがるのか。未発表の書簡等まで持ち出して、正当性を訴えるのはなぜ?
マルクスの労働・賃金の本質に関する分析は評価するとして、1世紀以上前の人物の言論にそこまで固執してどうする、という気がした。
本書が訴える内容に共感できる部分はある。資本主義の先鋭化が環境破壊や格差をもたらす面は否定できない。
とはいえ、現在世界を覆う資本主義(および競争経済)と貨幣経済を、本書が唱えるようにひっくり返すのは無理筋だろう。
多くの地域でそれら経済体制が採択されていることは、それらが結局「最もマシ」だからではないか。
また、人間の本性に合致しているからという側面もあろう。
おそらく著者は無欲で、公益性を重視する好人物なのだと思う。私も(好人物ではないが)物欲や自己承認欲求が薄いタイプなので、欲望に満ちた資本主義の一面に否定的になる気分はわかる。
しかし、世の中、そういう人間は少数派だろう。
形はどうあれ人間の本性を抑圧する社会体制は、破綻するだろう。かつての共産圏のように。
(498文字! 環境保護を否定するわけではないが、そもそもの問題として「人類は未来永劫存続する必要があるのか(あるいは、可能なのか)」という視点はあってよかろう。例えば10万年単位で繰り返される地球の平均気温サイクルの前には、人間のできることは微々たるものではなかろうか。)