感染症数理モデルの専門知識を武器に、新型コロナの感染拡大を防ぐため、人どうしの「接触8割削減」を提唱。『8割おじさん』の二つ名で知られることになった医学者、西浦博。
日本では「レア者」な数理モデルの使い手である西浦氏が、政府の専門家会議に緊急招集され、激務に翻弄される様が、本書では本人の口から語られる。
感染防止と経済へのダメージ軽減は二律背反。そのため政府内や官僚からの抵抗にあい、あるいは世間からの矢面にも立たされる。まさに「火中の栗を拾ってしまった」状態だ。
専門家として譲れない線と現実との葛藤から、疫病への対応の難しさがあぶり出される。
また、自分の主張が曲解・利用されたりすることへの苦悩と不安が、行間からにじみ出ている。
新型コロナ禍は今もって続いており、当然「このように解決した」というスッキリした結末をむかえるわけでもなく、読後感にはモヤモヤが残る。
しかし、研究のプロとして、自らの考え・思いを伝えたいという情熱はひしひしと伝わってくる内容の濃い一冊だ。
医学者の立場から見た、新型コロナ対策の最前線の貴重なレポートであり、また、感染症数理モデルのさわりが分かるというお得本でもある。
(496文字! 後年、新型コロナ禍を振り返る際には、おそらく代表的な参考書籍になるであろう一冊、だと思う。)